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東京高等裁判所 昭和27年(う)4407号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は末尾添附の被告人本人の差し出した控訴趣意書記載のとおりである。被告人本人の控訴趣意第一点乃至第三点について

よつて按ずるに原判決が所論の検量証明書(水戸地方裁判所昭和二七年押第七二号の五)念書(同押号の六)誓約書(同押号の七)物品買受証(同押号の八)を証拠として挙示引用していること並びに原審第三回公判調書の記載によれば右の各書面はいずれも同公判廷において検査官からの証拠調請求に係るものであり且つ被告人がこれを証拠とすることについて同意したか否かの記載の存しないこと及び原審が右の証拠調請求を採用し右の各書面を領置していることは論旨の指摘するとおりである。論旨は右の各書面について被告人がこれを証拠とすることに同意していないのに拘わらず漫然これが証拠調をなし且つこれらを犯罪事実認定の証拠としたものであると非難するのであるが、前記の念書、誓約書、物品買受証について考えるのに右の物品買受証は被告人が昭和二十五年十月三十日日立工機株式会社に対し同会社より鋼材二六屯九〇一を買い受けた際差し出した物件受領証であり、同誓約書は被告人が同年十一月九日鈴豊及びその代理人八代に対し出荷不足分約十三屯の存することを承認した書面であり同念書は前同日右八代に対し前記誓約書記載の鋼材不足分十三屯余を同年十一月十五日までに勝田駅ホームへ出荷することを確約した書面であつて、いずれも被告人の作成に係るものであり、その証拠法上の性質は証拠書類ではなく証拠物と認むべきである。すなわち右の各書面は単にその記載の内容のみが証拠となるものではなく、記録によつても明らかなとおり自動車秤により有料で重量を測る法とをもつて業務の一としていた当時名古屋市西区牛島町八十七番地所在の中京金属株式会社係員の作成に係るものであり且つ特に信用すべき情況の下に作成された書面と認めるに十分であるから(なお当審において取調べた証人渡辺健の尋問調書の記載によつても右の証明書の信用性を肯認するに足りる)刑事訴訟法第三百二十三条第二号により、これまた被告人の同意を得ないままにこれを採証したからとてなんら訴訟法の規定に反するところはないのである。次に論旨は叙上の各証拠は原審公判廷において展示朗読等適式の証拠調を履踐しなかつたものであると非難するからこの点について考えてみるのになるほど原審公判調書にその旨記載のないことは所論の如くであるけれども刑事訴訟規則第四十四条により明らかなとおり証拠の取調方法の如きは公判調書の必要的記載事項にはなつていないのであるから公判調書にその旨の記載がないからとて直ちに原審はこれらの書類について適式の証拠調をしなかつたものと解すべきではなく、むしろかかる公判手続において一般的に当然行われる事項であつて特に公判調書の必要的記載事項とされていない訴訟手続については特段の事情の存しない限り適式に履踐されたものと解するのが当然である。ひるがえつて本件訴訟記録を精査するも前記各面について刑事訴訟法第三百五条第三百六条第三百七条刑事訴訟規則第二百三条の二等の規定に従い証拠調をしなかつたものと認められるような形跡は全く存しない。従つて原審が叙上の各証拠について適式の証拠調をしなかつたものであるとの所論は到底採用することはできない。それゆえ各論旨はいずれも理由がない。

同第四点について

所論に鑑み本件訴訟記録並びに原審及び当審において取り調べた証拠に現われている一切の事実を精査すれば論旨の指摘する諸般の情状を斟酌しても原審の被告人に対する量刑は相当であり重きに失するものとは認められないから論旨は理由がない。

よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却し当審の訴訟費用は同法第百八十一条により被告人に全部これを負担させるべきものとし主文のとおり判決する。

(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 鈴木重光)

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